年間レシート5.5兆円規模へ、拡大するビッグデータ基盤
小売業界におけるID-POSデータ活用は、2026年に入りかつてない規模へと拡大しています。ビッグデータ事業者が運営するプラットフォームは、全国のドラッグストアや食品スーパーマーケットから収集するレシートデータが年間5.5兆円規模に達し、アクティブユーザー数は年間6,000万人を超えると報じられています。これは一部の大手企業だけの話ではなく、業界全体でID-POSデータを「経営の意思決定材料」として扱う動きが定着してきたことを示しています。
こうした流れを受け、2026年3月に東京ビッグサイトで開催された展示会では、POS/ID-POSデータに加えて顧客データ、人流データ、勤怠データまでを統合する分析基盤が披露され、現場の注目を集めました。経営層から店舗運営部まで、立場の異なる担当者が同じデータ基盤を見ながら課題解決に取り組める環境が、現実のものになりつつあります。
また、ID-POSデータと位置情報を組み合わせたWEB広告サービスも登場し、「過去1ヶ月に競合店を利用したユーザー」「30代の子育て世代」といった精緻なセグメントに向けた販促施策が可能になっています。来店や売上の変化を数値で検証できる点は、従来型のマス広告にはなかった大きな強みといえるでしょう。
発注・棚割りの最適化が食品ロス削減に直結
現場レベルでの変化として顕著なのが、発注・棚割り業務へのAI活用です。生成AIを組み込んだ需要予測エンジンは、店舗ごとの過去購買パターンに気象データや商圏データを掛け合わせることで発注精度を高めており、担当者が発注量の根拠を自然言語で説明できる仕組みも整いつつあります。長年、ベテラン担当者の経験と勘に頼ってきた発注業務が、データとして可視化・継承できるようになってきたのです。
特に弁当・惣菜カテゴリーでは、需要予測AIの導入によって廃棄率が従来比で2割前後削減されたうえ、欠品率も同時に改善したという報告が出ています。廃棄を減らそうとして欠品が増える、というトレードオフを乗り越えた事例として注目されています。ドラッグストア業界でも、化粧品や日用品カテゴリでAI発注を導入した店舗で欠品率が大きく改善したとの報告があり、マギーが提供するID-POS分析基盤「PAL」や来店客識別基盤「PowerID」といったソリューションも、こうした現場改善を支える技術のひとつとして活用が進んでいます。
業界再編の鍵を握る「データ活用力」
2026年はドラッグストア業界で大型統合が発表され、売上規模2兆円級のグループが誕生するなど、業界再編が加速した年でもあります。店舗網の統合そのものは比較的早期に完了しても、ID-POSデータを活用した顧客分析やプライベートブランド戦略を一体化できるかどうかが、統合効果を左右する本質的な鍵になるとみられています。
コンビニ大手3社の業績格差についても、顧客データの活用度合いが影響しているとの指摘が業界内で強まっています。単にデータを保有しているかではなく、分析し、現場の意思決定に落とし込めるかどうかが、各社の明暗を分ける分水嶺になりつつあるのです。
こうした中、日本経済新聞社が提供する日経POS情報にドラッグストアデータが追加されるなど、業界横断でのデータ基盤整備も進んでいます。今後は特定チェーンの枠を超えた比較分析やベンチマーキングが一般化し、ID-POSデータ活用の巧拙がより明確に業績へ反映される時代に入っていくと考えられます。