CRM戦略、「セグメント」から「一人ひとり」へ完全移行
2026年の小売業界では、CRM戦略のあり方が大きく変わりつつあります。かつて主流だった「年代別」「性別」といったセグメント単位のクーポン配布は、いまや購買履歴に基づく完全個客対応型のプロモーションに置き換わりつつあります。
業界団体の調査によれば、国内の大手食品スーパーおよびドラッグストアの約7割が、直近1年以内に個客単位のプロモーション施策を新規導入または拡充したと回答しています。特に注目されているのが、来店頻度や購買周期のデータから「離反予兆」を検知し、顧客が実際に離れてしまう前に最適なオファーを届ける仕組みです。こうした予兆検知には、ID-POSデータを起点とした購買行動の分析と、AIによるリアルタイムなスコアリングが不可欠であり、現場では分析基盤と配信システムの連携スピードが競争力の差につながっています。
ロイヤルティプログラムの目的が「ポイント」から「体験」へ
同時に、ロイヤルティプログラムそのものの役割も再定義されています。単なる経済的インセンティブとしてのポイント付与だけでなく、誕生月限定の特典、購買履歴に基づくレシピ提案、店舗スタッフとの接点を組み合わせたハイブリッド型のプログラムが増加しています。
ドラッグストア業界では各社の方針差も鮮明です。コスモス薬品は独自ポイントサービスを実施せず、値引き相当分を価格に反映する「毎日安い」方針を継続する一方、マツキヨココカラ&カンパニーは独自ポイントとdポイントを併用し、購入金額に応じて還元率が変動する仕組みを採用しています。ウエルシアホールディングスは独自ポイントを持たず「WAON POINT」を軸にした、いわゆる「ウエル活」施策で引き続き高い支持を集めています。各社がポイント設計で差別化を図る一方、根底にあるのは「どれだけ個客の購買文脈を理解できているか」という共通の課題です。
リテールメディア市場の急拡大とパーソナライズ広告
こうした個客理解の精度向上を後押ししているのが、リテールメディア市場の急成長です。現在、国内のリテールメディア市場規模は805億円に達し、5年前の90億円からわずかな期間で約9倍という驚異的な成長を遂げています。Googleが提供する「Direct Offers」機能のように、購入意欲が高まった特定の買い物客に対してパーソナライズされた特別オファーを提示する仕組みが広がり、価格競争だけでなく「価値」を軸にした訴求が主流になりつつあります。
コンビニ業界でもアプリ連動型の施策が加速しています。ファミリーマートの「ファミペイ」は会員数3,500万人超に達し、アプリと店頭サイネージを連動させたクロスメディア広告が差別化のポイントとなっています。セブン‐イレブンの「プライチ」、ローソンの無料券・値引券企画、ミニストップの「1GET」など、各社がアプリを起点とした継続的なキャンペーンを展開しており、個客単位のデータ活用がプロモーション設計の前提となってきています。
こうした流れの中で、PAL、PowerID、i-codeのようなID-POSデータ分析基盤や、Ameba DNA AIに代表される行動予測技術は、離反予兆の検知や個客別オファーの最適化を支える重要な役割を担いつつあります。マス向け施策から個客単位の体験設計へ――2026年のリテールマーケティングは、まさにその転換点を迎えています。